この記事は、配当を維持・増額する方針を持つ企業を1株ずつ買い増す「累進増配スクリーニング」の個別銘柄リサーチです。
累進配当または前期以上を基本とする同等方針の明記、予想普通配当性向40%以下、予想PER12倍以下、普通配当利回り3%以上を重視します。直近10期の無配・減配も確認し、減配がある場合は原因・解消・配当水準の回復を調べます。
今回は10月26日の増配発表をきっかけに、信越ポリマーを取り上げます。半導体関連容器と包装フィルムの好調が増配を支えています。二つの事業の利益と会社全体の資金の状況を詳しく見ながら、現在の購入条件への適合を考えます。
年間66円から72円へ。中間と期末をそれぞれ3円増額
信越ポリマーは2026年10月26日15時30分、2027年3月期の年間配当予想を66円から72円へ引き上げました。従来予想比で6円、約9.1%の増額です。前期の年間62円と比べると10円、約16.1%増えます。
中間配当は33円予想から36円に決定し、期末配当予想も33円から36円へ増額しました。中間36円は9月30日を基準日とする配当で、効力発生日は11月26日、原資は利益剰余金です。年間72円の内訳は、中間の決定額36円と期末予想36円です。
今回の配当修正資料には記念・特別配当の記載がなく、年間72円を普通配当予想として扱います。前期の内訳は中間30円・期末32円で、今期は中間36円(前期比6円増)が決定し、期末も36円(同4円増)を予定しています。
半導体を運ぶ容器と、暮らしを包むフィルム
信越ポリマーは、樹脂やシリコーンゴムの加工技術を使い、電子部品、半導体関連容器、包装フィルムなどを手掛けるメーカーです。親会社は信越化学工業です。半導体の製造工程や輸送を支える製品を供給しています。
精密成形品事業では、シリコンウエハーの出荷用・工程内用の容器が主力の一つです。半導体関連容器は世界的に好調で、AIサーバー向け大型電子部品の包装に使うキャリアテープも伸びました。プリンター用ローラーの回復や医療用カテーテル部材の伸長も、同事業に含まれます。
もう一つ注目したいのが、住環境・生活資材事業です。ラッピングフィルムの販売が拡大し、半導体製造装置や工場自動化機器の電線被覆などに使う機能性コンパウンドも好調でした。会社は高付加価値の自社製品が伸びたことも説明しています。半導体向け需要と日常の包装需要が、それぞれ異なる製品を通じて収益を支えています。

営業増益の約9割を占める二つの事業
2027年3月期上期の売上高は643.25億円で前年同期比14.4%増、営業利益は93.54億円で31.6%増でした。売上高より営業利益の伸びが大きく、営業利益率は前年同期の約12.6%から約14.5%へ改善しています。
事業別では、精密成形品の営業利益が55.16億円から67.27億円へ12.11億円増えました。住環境・生活資材は7.81億円から16.32億円へ8.51億円の増加です。全社の営業増益22.44億円に対し、この二つの事業の増益額は合計20.62億円で、約92%を占めます。
電子デバイス事業の営業利益は6.46億円から6.76億円へ増え、増益額は0.30億円でした。会社は今期にM&Aを実行したと説明していますが、増収への寄与額は短信に記載がありません。
上期の経常利益は91.32億円で26.0%増、親会社株主に帰属する純利益は60.95億円で11.2%増です。純利益の伸び率は営業利益を下回りました。為替差損は前年同期の1.15億円から4.64億円へ、法人税等の合計は17.73億円から29.95億円へ増えています。本業の増益に対し、為替差損と税負担の増加が最終利益の伸びを抑えています。
通期予想も上方修正しています。売上高は1,200億円から1,270億円、営業利益は160億円から182億円、経常利益は160億円から180億円、純利益は105億円から118億円となりました。会社は修正理由として、半導体関連容器とラッピングフィルムが引き続き好調に推移する見込みを挙げています。
前期実績は売上高1,151.16億円、営業利益140.40億円、純利益98.99億円でした。今回予想は、従来予想からの増額であるとともに、前期からの増収増益を見込む内容です。今後の注目点は、半導体関連容器の需要と、フィルム・高付加価値製品の採算の持続性です。

営業キャッシュフローと株主還元
上期の営業キャッシュフローは86.64億円で、前年同期の77.48億円を上回りました。売上債権の増加による資金流出は37.14億円ありましたが、税引前利益や減価償却費などを背景に営業活動全体では資金を生み出しています。
投資キャッシュフローは47.35億円の流出です。定期預金の純増による資金流出30.64億円が含まれ、有形固定資産の取得支出16.12億円と無形固定資産の取得支出0.29億円の合計は16.41億円です。
現金及び現金同等物の9月末残高は488.41億円で、前期末の470.13億円から増えています。営業キャッシュフローから有形・無形固定資産の取得支出16.41億円を差し引くと70.23億円で、上期の配当支払額25.72億円を上回ります。この支払額は前期の期末配当などに対応します。自己資本比率は82.9%です。
同日には上限45万株、取得総額12.5億円の自社株買いも発表しました。取得期間は2026年10月27日から12月31日までです。取得した株式はストックオプションの行使時に交付する予定で、取得上限は自己株式を除く発行済株式の0.56%です。

過去10期の配当と今後の還元方針
直近10完了期、2017年3月期から2026年3月期までの年間配当総額は、順に12円、12円、16円、18円、20円、26円、38円、46円、52円、62円でした。年間総額では、この範囲に減配も無配もありません。今期の72円予想も、これまでの増配の流れに沿っています。
ただし2021年3月期の20円には、創立60周年の記念配当2円が含まれます。この期の普通配当は18円です。グラフは年間総額を示し、2021年3月期の記念配当2円を色分けしています。

会社の基本方針は、財務の健全性と研究開発・設備投資・M&Aの資金を確保しつつ、「業績に応じた中期的に安定的な配当を継続して行う」というものです。今回確認した開示に、累進配当やDOEの数値目標の記載はありません。
2025年11月の中期経営計画更新では、配当性向の目標を従来の上限50%から50%超へ引き上げました。配当総額の安定性を意識しながら還元を強める方針で、2030年3月期の目標表にも50%以上を掲げています。
修正後の予想EPS146.82円に対し、年間72円の予想配当性向は約49.0%です。利益の約半分を配当に回す水準で、利益成長を伴う増配として理解できます。会社が目指す還元水準に近く、本企画が重視する40%以下とは方向が異なります。
現在の購入条件では見送り
基準株価は2026年10月26日の東証終値2,236円です。修正後の会社予想に基づく予想PERは約15.23倍、予想普通配当利回りは約3.22%です。
配当方針:累進配当または前期以上を基本とする同等方針の明記を条件としています。確認した開示は安定配当の方針であり、不適合です。
配当余力:予想普通配当性向40%以下に対し約49.0%で、不適合です。
配当履歴:直近10期の年間総額に減配・無配はありません。記念配当の内訳を確認できたのは2021年3月期だけです。
割安さ:予想PER12倍以下に対し約15.23倍で、不適合です。EPS146.82円を前提とするPER12倍の株価は約1,762円です。この株価でも、安定配当という方針と約49.0%の配当性向は変わらず、両項目は不適合です。
利回り:予想普通配当利回り3%以上に対し約3.22%で、この条件は満たしています。
流動性〈参考〉:10月26日の売買代金は約9.33億円です。買付基準は直近5営業日の中央値1億円以上で、同期間の中央値は未確認です。
現時点では、累進配当の明示がなく、配当性向とPERも条件を上回るため、現在の増配ポートフォリオへの新規購入は見送ります。
二つの事業による利益成長、営業キャッシュフローの増加、厚い自己資本、増配の実績は魅力です。今後の注目点は配当方針の明文化と、株価と予想利益の関係です。会社が配当性向50%超を目指す現方針の下では、本企画の40%以下という条件は満たしにくい状態です。

出典・計算の基準
数値は連結ベース。配当は1株当たり。億円表示は公表された百万円単位の数値を換算しています。本文中の利益率、増益寄与割合、配当性向、PER、利回りは記載値から計算しました。情報確認日は2026年10月27日(日本時間)。株価は10月26日の東証終値で、出典は下記の株価情報です。
信越ポリマー「連結業績予想の修正並びに剰余金の配当(中間配当)及び期末配当予想の修正(増配)に関するお知らせ」(2026年10月26日、1〜2ページ)。
https://www.shinpoly.co.jp/ja/ir/release/auto_20261026555722/pdfFile.pdf
信越ポリマー「2027年3月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年10月26日、表紙・添付資料の経営成績、財務諸表、セグメント情報)。
https://www.shinpoly.co.jp/ja/ir/release/auto_20261026555690/pdfFile.pdf
信越ポリマー「自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ」(2026年10月26日、1ページ)。
https://www.shinpoly.co.jp/ja/ir/release/auto_20261026555798/pdfFile.pdf
信越ポリマー「ANNUAL REVIEW 2026」(中期経営計画10〜11ページ、11年間の主要財務・非財務データ35ページ)。年度表記を3月期へ対応させ、2017〜2026年3月期の配当総額を確認。
https://www.shinpoly.co.jp/ja/ir/library/annual/main/0113/teaserItems2/0/linkList/0/link/ar2026j.pdf
信越ポリマー「第64回定時株主総会招集ご通知」(2024年5月29日、6ページの配当推移・記念配当注記)。
https://www.shinpoly.co.jp/ja/ir/release/auto_20240529513191/pdfFile.pdf
Yahoo!ファイナンス/株探「信越ポリマー(7970)」株価情報(2026年10月26日終値)。
https://finance.yahoo.co.jp/quote/7970.T
https://s.kabutan.jp/stocks/7970/
本記事は情報提供を目的とし、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。業績・配当予想は変更される場合があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。