日本精線が10月28日14時30分、2027年3月期の年間配当予想を46円から52円へ引き上げました。増額する6円は中間配当に上乗せし、中間24円を決定。期末28円の予想は据え置きです。
今回目を引いたのは、半導体向けガスフィルターの上期売上高が前年同期比69.5%増となったことです。年間配当は前期42円から10円増えますが、2025年3月期の56円には届きません。事業の回復がどこまで配当を支えるのかを追います。
「きゅぷるの累進増配スクリーニング」では、累進配当または前期以上の配当を基本とする方針、会社予想の普通配当性向40%以下、PER12倍以下(10倍以下を重視)、普通配当利回り3%以上、直近10期に年間無配がないことを確認しています。減配は原因・解消・回復を確認できる場合に限り例外を検討します。増配ニュースへの掲載は、購入条件の通過を意味しません。
細いステンレス線と、半導体工場のガスを支える製品
日本精線は、ばね・ねじ・ボルトなどの材料になるステンレス鋼線と、金属繊維・フィルターを製造する会社です。上期の売上高251.45億円のうち、ステンレス鋼線は196.64億円、金属繊維は54.80億円でした。端数処理により合計と一致しない部分があります。
鋼線では、自動車や半導体製造装置向けのボルト用材、日用品向けばね用材、医療向けの極細ばね用材が伸びました。一方、建築・土木向けのねじ用材や太陽光パネル向けの極細線は低調です。線材の販売数量は月平均2,931トン、前年同期比1.1%増。すべての用途が一斉に伸びているわけではありません。
成長が際立つのは、超精密ガスフィルター「NASclean」です。ステンレスの短繊維を焼結した薄い金属膜で、生産工程で使うガスに含まれる微粒子を取り除きます。濾材から最終製品まで一貫生産しており、半導体製造装置のガス配管などで使われます。

ガスフィルターの伸びと、利益を押し上げた要因
2026年4〜9月のガスフィルター売上高は37.26億円で、前年同期比69.5%増でした。会社はAIやデータセンター向け半導体需要の強さが続き、半導体製造装置メーカー向けを中心に販売が大きく伸びたと説明しています。ナスロンフィルターも17.54億円、同11.6%増でした。
連結上期は売上高251.45億円、営業利益18.53億円、経常利益19.86億円、親会社株主に帰属する純利益14.13億円。前年同期比ではそれぞれ11.9%増、55.1%増、59.9%増、56.6%増です。
決算説明資料の経常利益増減分析では、販売構成などを示す「内容差」が5.26億円の増益要因でした。数量差1.51億円、原価低減・価格改定0.81億円、ニッケル要因1.10億円も寄与しています。一方、固定費等は2.09億円の減益要因。高付加価値製品の販売拡大だけでなく、原料市況や費用の動きも利益に影響します。
営業外損益にも0.85億円の改善がありました。短信では為替差益が0.04億円から0.47億円へ増え、環境対策引当金の戻入額0.29億円も計上されています。経常増益をすべて製品の販売増だけで説明することはできません。
通期は上方修正。ただし2年前の利益には届かない
通期予想は、売上高497億円から515億円、営業利益39億円から42億円、経常利益39億円から43.50億円、純利益28億円から31億円へ引き上げられました。EPSは91.17円から100.91円へ上昇します。
前期実績に対しては、売上高10.5%増、営業利益36.5%増、経常利益34.2%増、純利益44.3%増の計画です。ただ、2025年3月期の経常利益45.85億円と純利益32.50億円は下回ります。前期の落ち込みから回復する予想であり、過去最高の利益へ突き抜ける計画という読み方にはなりません。

営業CFは増えたが、増益以外の寄与も大きい
上期の営業キャッシュフローは38.90億円で、前年同期の20.83億円から増加しました。ただし、仕入債務の増加による資金増が15.48億円あります。前年同期は1.89億円でした。法人税等の支払いも7.54億円から0.01億円へ減っています。
これらは現金収支を支えますが、製品を売って得る利益が同じ割合で増えたことを意味しません。仕入先への支払い時期や税金の納付時期で動く部分を含むため、上期の営業CFを単純に2倍して通期の配当余力とみなさないようにしたいところです。
投資CFは23.80億円の支出。有形固定資産の取得に23.05億円を使っており、前年同期の16.35億円より増えています。営業CFから投資CFの支出を差し引くと15.10億円のプラスでした。現金同等物は期首から6.61億円増え、165.70億円。自己資本比率は73.2%です。
手元資金と財務基盤は確認できます。一方で、成長分野への投資が続く中、営業CFの増加が翌期以降も続くかは、利益と運転資金を分けて追う必要があります。

配当性向50%程度が目安。累進配当の約束とは別
会社が示す還元方針は、連結配当性向50%程度を目途とするものです。今回の新予想では、年間52円をEPS100.91円で割った予想配当性向は51.5%になります。累進配当や前期以上を基本とする方針、DOEの数値目標は、今回確認した還元方針と中期計画には明記されていません。
年間52円は前期42円から23.8%増、従来予想46円から13.0%増です。中間配当24円の原資は利益剰余金。基準日は2026年9月30日で、支払開始予定日は12月3日です。今から購入しても、この中間配当の権利を得られるわけではありません。年間利回りは1年分の配当予想による比較指標です。
過去10期の年間配当を現在の株式単位へそろえると、2017年3月期から順に13円、24円、26円、16円、22円、42円、42円、42円、56円、42円でした。年間無配はなく、2020年3月期と2026年3月期に減配があります。
2017年10月の5株を1株にする併合と、2024年4月の1株を5株にする分割を反映しています。2018年3月期は中間10円と併合後の期末70円を単純に足さず、現在単位では10円+70円÷5=24円です。
2020年3月期は需要減や在庫調整で販売数量が落ち、純利益は47.1%減でした。会社は当該年度の新型コロナの影響を軽微と説明しているため、この減配を一括して「コロナによる一時的減配」とは扱いません。2026年3月期も純利益が33.9%減少しています。今回の年間52円予想は、その前の56円をまだ回復していません。

今の価格で新規購入するか
10月28日の東証終値1,286円をYahoo!ファイナンスと株探で照合しました。新しい会社予想を使うと、PERは1,286円÷100.91円=12.74倍、年間予想配当利回りは52円÷1,286円=4.04%です。配当性向は52円÷100.91円=51.5%。各判定は丸める前の数値で行っています。
利回りは基準の3%を超えます。一方、配当性向は40%以下、PERは12倍以下という条件から外れ、累進配当等の明示も確認できません。配当履歴は無配なしを満たすものの、減配の例外認定はしていません。会社の配当性向50%程度という方針は、本企画の40%以下という購入条件とは別です。
ガスフィルターの急伸、上方修正、厚い手元資金は前向きな材料です。それでも、現時点では累進配当表明型としての新規購入を見送ります。利益に連動して配当が上下してきた会社であり、今回の増配だけで減配しにくい方針へ変わったとは判断できないことが決め手です。
次はガスフィルターの販売増が続くか、投資と運転資金を差し引いても現金を積み上げられるかを確認します。購入候補として再検討するには、配当方針、予想配当性向、株価に対する利益水準の各条件を改めて確認する必要があります。

出典
日本精線:業績予想修正・中間配当決定(2026年10月28日)
https://www.n-seisen.co.jp/ir/document/pdf/news_japanese_20261028_6ae1aaf58e0eb.pdf
2027年3月期中間決算短信
https://www.n-seisen.co.jp/ir/document/pdf/statements_20261028_6ae191e831e71.pdf
中間決算説明資料
https://www.n-seisen.co.jp/ir/document/pdf/document_20261028_6ae190b12815b.pdf
配当情報
https://www.n-seisen.co.jp/ir/info/dividend/
各期決算短信:配当履歴・株式単位・過年度業績
https://www.n-seisen.co.jp/ir/library/statements/
中期経営計画
https://www.n-seisen.co.jp/ir/library/plan/
半導体ガスフィルターの製品案内
https://www.n-seisen.co.jp/products/filter/gas/
Yahoo!ファイナンス:5659
https://finance.yahoo.co.jp/quote/5659.T
株探:5659
https://s.kabutan.jp/stocks/5659/
情報基準日は2026年10月28日。株価は同日15時30分の終値、予想値は同日公表の修正会社予想です。株探の株価表示には15分の遅延があります。図中の工場やキャラクターの動きは事業を伝えるための架空の演出です。
本記事は情報整理を目的とし、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。将来の業績・配当は変更される可能性があります。